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■概念・定義

黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として(1)安静時振戦、(2)筋強剛(筋固縮)、(3)無動・寡動、(4)姿勢反射障害を特徴とする。このほか(5)同時に二つの動作をする能力の低下、(6)自由にリズムを作る能力の低下を加えると、ほとんどの運動症状を説明することができる。近年では運動症状のみならず、精神症状などの非運動症状も注目されている。

 

■病因

現段階では不明である。パーキンソン病で障害される中脳黒質のドパミン細胞内には、Lewy小体と呼ばれる細胞内封入体が蓄積する。その主たる構成要素であるα-シヌクレインは140アミノ酸からなるタンパク質で、細胞内の物質輸送に関係している。α-シヌクレインの構造が変化して細胞膜を障害する、ミトコンドリアに変化を起こす、小胞体の機能障害を起こす、細胞内のユビキチン-プロテオソーム系を障害して不要なタンパク質の分解を阻止するなど、パーキンソン病の病因としていくつかの仮説が提唱されている。また、それぞれの過程に家族性パーキンソニズムの原因となる遺伝子異常が関与することや、環境因子が影響することも明らかとなっている。

Braakは抗α-シヌクレイン抗体を用いて高齢者の中枢神経系におけるLewy小体の分布を詳細に検討した。Lewy小体はまず迷走神経背側核と嗅球に出現、その後下部脳幹、中脳黒質へ進展して運動症状を発現させる。さらに前脳基底部(basal forebrain)、側頭葉皮質、大脳新皮質へと拡大して、精神症状など様々な非運動症状に関係すると考えられている。

■治療

病勢の進行そのものを止める治療法は現在までのところ開発されていない。全ての治療は対症療法であるので、症状の程度によって適切な薬物療法や手術療法を選択する。

1.薬物療法
現在大きく分けて8グループの治療薬が使われている。それぞれには特徴があり、必要に応じて組み合わせて服薬する。近年、医学の進歩は非常に速い。教科書に書かれた治療法が既に過去の遺物のこともある。しかし膨大な情報の中から、医師個人が全分野の最新情報を正しく選択するのは困難である。そんな時、最新の治療ガイドラインが役に立つ。治療ガイドラインは、専門家がこれまでの臨床研究の成果を吟味し、その時点での標準的な治療法を解説したものである。パーキンソン病に関して、我が国では2002年に日本神経学会から「パーキンソン病治療ガイドライン」(https://www.neurology-jp.org/guidelinem/neuro/parkinson/parkinson_index.html)が発表された。既に8年経過していて最新とは言えず、間もなく改定が予定されているが、治療薬を選択する上での参考になる。パーキンソン病治療ガイドラインの根底を流れる思想は次のとおりである。(1)最も強力な抗パーキンソン病薬はL-dopaであるが、(2)L-dopaの長期服薬により運動合併症が起こる。(3)早期にはそれを回避する対策を、(4)進行期にはそれを軽減する方法を講じよう。その結果、以下の治療指針が示されている。
パーキンソン病治療の基本薬はL-dopaとドパミンアゴニストである。早期にはどちらも有効であるが、L-dopaによる運動合併症が起こりやすい若年者は、ドパミンアゴニストで治療開始すべきである。一方高齢者(一つの目安として70~75歳以上)および認知症を合併している患者は、ドパミンアゴニストによって幻覚・妄想が誘発されやすく、運動合併症の発現は若年者ほど多くないのでL-dopaで治療開始して良い。
現在わが国では6種類のドパミンアゴニストが使用可能であるが、それぞれ特徴があるので使い分けが必要である。Pergolide(ペルマックス)、Cabergoline(カバサール)で心臓弁膜症や肺線維症が起きたとの報告があり、服薬するときは心エコー検査等で定期的に心臓の弁の状態をチェックする必要がある。一方pramipexole(ビ・シフロール)やropinirole(レキップ)では運転中に突然入眠して事故を起こす「突発的睡眠」が起こることがあるため、服薬中は運転しないよう警告が出されている。
進行期になるとL-dopaの効果が短くなって、次の服薬の前に薬効が切れるwearing-off現象が出現する。OFFを回避するためにL-dopaを過剰に服薬すると、ドパミン受容体が過剰に刺激されてジスキネジアが出現する。このようなL-dopaによる症状の変動を認めるときは、ジスキネジアの有無によって対応が異なる。ジスキネジアが無ければMAO-B阻害薬のselegiline(エフピー)を追加する。ジスキネジアのあるときはL-dopaの1回量を減らして服薬回数を増やし、まだ使用していなければドパミンアゴニストを追加する。ジスキネジアに対してはamantadine(シンメトレル)が有効なことがある。パーキンソン病治療ガイドラインの発表後、2007年より末梢性COMT阻害薬であるentacapone(コムタン)が使用可能になった。L-dopaと併用することでドーパの最高血中濃度を上げずに持続時間を長くするので、ジスキネジアを誘発せずにwearing-off現象を改善することが出来る。ただし末梢性COMT阻害薬には全く反応しない症例(non-responder)が存在し、また激しいジスキネジアを伴うときは症状のコントロールが難しい。このような症例では手術療法を検討すると良い。
2009年より世界に先駆け、我が国でzonisamide(トレリーフ)が使用可能になった。Zonisamideは既に抗てんかん薬として使用されていた。パーキンソン病に対する作用機序は完全には解明されていないが、L-dopaと併用することでwearing-off現象のOFF時間の短縮が認められた。全ての症例に有効なわけではないが、著効を示す例もある。どのような症例に有用なのか今後の研究が期待される。
精神症状、なかでも薬剤性の幻覚・妄想は大きな問題である。ドパミン補充療法そのものが、幻覚・妄想を誘発する可能性を持っている。幻覚・妄想の治療について、ガイドラインは「最後に加えた薬剤の中止」を勧めているが、これだけで解決することは少ない。基本は多剤併用を改め、処方を単純化することである。精神症状を起こしやすい薬から順次中止する。抗コリン剤→アマンタジン→(ドロキシドパ)→MAO-B阻害薬→ドパミンアゴニスト→L-dopaの順に休薬する。それでも精神症状が残る場合には非定型抗精神病薬を用いるが、長期的に有効であるというエビデンスは存在せず運動症状が悪化する可能性が高いので、使うとしても短期間に留め専門医以外は手を出さない方がよい。
2.手術療法
手術は定位脳手術によって行われる。定位脳手術とは頭蓋骨に固定したフレームと、脳深部の目評点の位置関係を三次元化して、外から見ることのできない脳深部の目評点に正確に到達する技術である。頭蓋骨に開けた小さな穴から針を刺すだけなので、手術侵襲は非常に軽い。目標となるのは(1)視床、(2)淡蒼球、(3)視床下核の3ヶ所で、(1)と(2)は熱を加えて特定部位を破壊する旧来の方法(凝固術)も深部電気刺激治療(DBS:deep brain stimulation)も可能であるが、(3)はもっぱらDBSだけが行われる。DBSは脳深部に電極を留置し、前胸部に植え込んだ刺激装置で高頻度刺激する治療法である。高頻度刺激すると神経細胞は活動を休み、破壊したのと同様の効果が得られる。我が国では2000年4月から保険適応が認められた。DBSは脳を破壊しないので手術合併症が少ないかわり、異物が体内に残るため感染や断線の危険がある。また、術後にプログラミングあるいはチューニングと呼ばれる刺激条件の調整が必要である。
手術療法も症状を緩和する対症療法であって、病勢の進行そのものを止める治療法ではないが、服薬とは異なり持続的に治療効果を発現させることができる。このためwearing-off現象やジスキネジアに悩む症例は良い適応となる。運動症状を改善して服薬量を少なくすることで幻覚、妄想などの精神症状を緩和することができる半面、視床下核のDBSでは脱抑制性の病的精神状態に陥ることもあるので、介護者を含めて術前から十分な情報を共有することが大切である。

手術治療は高度な設備と熟練を要するため限られた施設のみで実施されている。手術療法は薬物療法と比べてハイリスク・ハイリターンな治療法である。手術療法を選択するかどうかは、この治療法に習熟した専門医と相談すべきである。

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